脳は、水分を除いた乾燥重量の約6割が脂質で構成されています。
つまり、油のかたまりのような組織です。
脳にはたくさんの神経組織があるわけですが、なぜ、こんなにも油が多いのでしょう?
理由は、脳を構成する神経細胞やグリア細胞には長~い複雑な突起があり、さらに
そこにはミエリン鞘(しょう)と呼ばれる絶縁体があるため、
それだけ、細胞膜の割合が大きいことによって、
コレステロールやリン脂質などの油が多くなるからです。
脳のリン脂質は、オメガ3であるDHAやオメガ6のアラキドン酸などいわゆる多価不飽和脂肪酸(PUFA)が多く含まれています。
脳の神経細胞は流動性が高まるほど、その機能性が向上します。
そして、DHAは細胞膜の流動性を高めますので、
脳の神経細胞に多く存在しているのです。
また、DHAは、脳の発達中に、神経幹細胞の増殖を促したり、それをさらにニューロン(神経細胞)
に分化させたりします。
アラキドン酸も重要で、海馬の神経新生に働きますが、現代人は、アラキドン酸が過剰で、
DHAが少ないということを考慮すれば、アラキドン酸(オメガ6)の摂りすぎに注意し、
DHAを意識して積極的に取り入れていく必要があります。
DHAを多く含む食材は、青魚、鮭などの脂ののった魚ですので、これらをよく食べましょう。
続いて、「砂糖」などの精製糖質の摂りすぎに気を付けましょう。
2016年のオーストラリアの研究では、砂糖などの精製糖質が記憶をつかさどる脳の海馬にダメージを
与え、炎症が起こり、記憶力の低下がみられることを発表しています。
2017年のアメリカのボストン大学の研究では、約4,000人の調査で、砂糖をよく食べる人は、
あまり食べない人に比べて脳の容積と海馬の容積が小さくなっており、記憶力低下になっている
ということを報告しています。
甘いもの摂り過ぎは、やはり良くありません。たとえ摂りすぎていなくとも、日々少量でも摂り続けている方も注意しましょう。
続いて、「食物繊維」や「善玉菌」です。食物繊維が脳を健康するというのは、意外だと思うかもしれません。
食物繊維といえば、腸の健康に貢献するものだからです。実は、食物繊維が腸内細菌により
発酵されると、「酪酸」などの短鎖脂肪酸が合成されます。
酪酸により、腸内環境が良好になると、脳内の環境も良好になるという現象が起こります。
これは「腸脳相関」と呼ばれています。つまり、腸と脳は常にやりとりをしているのです。
また、酪酸は基本的に大腸のエネルギー源となるわけですが、一部が腸から吸収され、
そのまま肝臓や脳などに送り込まれます。
脳に取り込まれれば、エネルギー源となったり、炎症を抑制する生理作用もみられるのです。
そして、多くの研究で、乳酸菌などのプロバイオティクス(生きた善玉菌)を摂り続けることにより、
腸内環境の改善だけでなく脳内のシステムも良好になるということが報告されています。
腸脳相関は、腸内細菌の学会等において、現在最も研究量の多いテーマです。
つづいて、「ビタミンB6、葉酸、B12」です。これらはタッグを組んで、脳機能を向上させます。
実際に、脳内にある葉酸の濃度は、血液中の濃度の約4倍にも上ります。
B6に至っては、約30倍です。それだけ、脳ではビタミンB群の需要が高いのです。
神経では、常にDNAのメチル化という化学反応が起きています。
これらを制御する栄養素こそ、B6、葉酸、B12なのです。
B6を多く含む食品は、にんにく、ピスタチオ、ごま、レバー、鶏ひき肉、鶏ささみ、鮭、海苔、
アマランサス、サンマ、アジ、サバ、牛肉、大豆、するめ、バナナ、アボカドなどです。
葉酸を多く含む食材は、レバー、海藻類(特に海苔)、豆類(特に納豆)、きのこ類
(エリンギ、えのきなど)、卵、芽キャベツ、味噌、いちご、アボカド、パセリ、ほうれん草、小葱、
菜の花、春菊、アスパラガス、煮干し、ホタテ、チーズ、枝豆、モロヘイヤ、サニーレタス、
ブロッコリー、オクラ、ピーナッツバター、ライチ、マンゴー、切り干し大根、かいわれだいこん、
干しシイタケ、ケールなどです。
B12を多く含む食材は、しじみ、赤貝、あさり、牛レバー、鶏レバー、煮干し、さんま、いわし、
いくら、すじこ、たらこなどです。
続いて、「レシチン」や「コリン」です。レシチンとは、リン脂質を主体とする混合物の総称です。
その成分に、
・フォスファチジルコリン
・フォスファチジルエタノールアミン
・フォスファチジルイノシトール
・フォスファチジン酸
・スフィンゴミエリン
などがあります。
※ただし、フォスファチジルコリンのみを指すことが多いです。
2014年のドイツ、スイス、イスラエルによる共同研究では、
高齢者へのレシチン投与は、記憶力や認知機能の向上に役立つことが報告されています。
レシチンという名前は、卵黄から発見されたことにちなんで、ギリシャ語で卵黄を意味する
「レシトス」に由来しています。レシチンは卵黄や大豆に多く含まれています。
また、レシチンの成分である「コリン」は水溶性のビタミン様物質で、摂取したあとに体内に吸収
されると脳まで届き、レシチンの構成成分として、脳内の神経伝達物質の一つである
「アセチルコリン」をつくる材料となります。
ちなみに、認知症の過半を占めるアルツハイマー型認知症の原因の一つに、アセチルコリンの減少
があげられます。
続いて「ミネラル」です。
脳にとって重要なミネラルは、なんといっても、「マグネシウム」と「亜鉛」です。
脳の神経組織において、マグネシウムは、正常な神経伝達や調整において重要な役割を
果たしています。
また、神経細胞死の原因の一つである、脳の興奮毒性から保護する働きがマグネシウムには
あるのです。
2018年のアメリカの発表では、マグネシウムの量が少ないと、グルタミン酸誘発の興奮毒性が高まり、
酸化ストレスにより神経細胞死が起こりやすくなる、ということを報告しています。
マグネシウムは神経機能の調整にメインで働いています。
ぜひ、マグネシウム食品を意識して摂りましょう。
亜鉛は、脳の発達において、神経細胞の成長や増殖に機能しています。
また、新しい研究では、亜鉛は神経細胞の新生を増加させるということがわかっています。
子どもの調査においても、亜鉛が不足していると、学習能力の低下や精神の遅れなどが見られる
ことが発表されています。
最後に、「フラボノイド」です。フラボノイドとは植物に含まれるポリフェノールの一種です。
フラボノイドといえば、アントシアニン、カテキン、イソフラボン、ケルセチン、セサミン、
テアフラビンなどが有名です。
興味深いことに、フラボノイドは血液脳関門を通過し、脳の中でも、特に海馬、大脳皮質、小脳、
線条体など学習と記憶に不可欠な脳の領域に局在していることがわかっています。
同時に、これらの組織は、酸化ストレスや炎症に対して脆弱であり、フラボノイドがこれらに対して
直接「神経保護効果」を発揮していると考えられています。
中でも、お勧めなのが、アントシアニンと、カテキンです。
アントシアニンを多く含むブルーベリーなどには、子どもや高齢者の認知機能を改善することが、
2019年のイギリスの研究で報告されています。
また、2018年のインディアナ大学公衆衛生学部の発表では、カテキンを多く含む緑茶には、
記憶力の改善が見られたということを報告しています。
以上のように、脳に良い食事とは、まず、これらの栄養素を多く含む食材を意識することです。
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