最近の疫学研究を見ても、牛乳をはじめ、乳製品を摂りすぎている人は、なんらかの病気の発症リスクを上げている、とくにホルモン系のがんの関係の発症度を上げているのではないかという議論が尽きないです。
<現在も議論の分かれる牛乳>
日本人の調査における新しい研究では、牛乳をよく飲む男性においては、前立腺がんの発症リスクが上がっていると報告されています。
牛乳の習慣的な飲用は、男性においては前立腺がん、女性では乳がんとの発症リスクとの相関がよく報告されています。
同時に、ほかの研究者が別のデータを調査すると「いや、その相関はない」というのもあります。
割と幼少期に飲む牛乳に関しては、そんなに大きな影響はないというふうにみえます。
それはやはり成長期だから、それらが栄養源となって、上手に代謝できるというところだと思います。
ところが、大人になって、年代にもよるのですが、(超高齢層ではない限り、)成人してから、そして具体的に言えば、人によると思いますが、50、60代までにゴクゴク飲むと、やはり影響があるようです。
ところが、超高齢のシニア層になりますと、栄養不足の方が多いので、牛乳は武器となるという、だいたいそのような報告が多いです。
疫学調査を見ても、だいたい牛乳とか乳製品をよく食べる人が、がんを患うという論文があるとしたら、だいたい20代から60代ぐらいの世代には起きやすい。
<「牛乳は人間の飲みものではなく、子牛の飲みもの」?>
そもそも、このテーマを出すとよく言われるのが、「牛乳はそもそも、人間の飲みものではなくて、子牛の飲みものである」というものです。
たしかに人間が飲むものというのは母乳であって、本来は牛乳ではありません。
しかも「乳、ミルクというものは、子どもの飲むものであって、乳離れした大人が飲むものではない」
もうこれは、ごもっともなんですよ。それは本当にそうでしょう。
ところが、そうはいかないのがこの人間社会です。
そもそも牛乳に限らず、あらゆる食材で、人間のために存在しているものなどないのです。
人間も動物も、とにかくエネルギー源となるものであれば、なんでも食べるというのがあって、そもそもミルクは人間のために存在していないというのは分かるのですが、それを言うと、すべての食べ物がそうであります。
たとえば、はちみつがあります。
はちみつだって、これは蜂の食糧で、人間が食べるものではない。
でも、人間はそのエネルギーを利用して、食べているというのもあります。
あと、極端なことをいうと、動物のフンを食べる糞虫(ふんちゅう)、コガネムシというのがあります。
動物のフンだって食べるものとして存在しているわけでじゃない、でもそれを、糞虫コガネムシはそれを利用しているわけです。
<地球の陸地の約1/3は乾燥地帯>
地球の陸地の約1/3は乾燥地帯です。
人間はいろんな大陸に渡ったのですが、渡れば渡るほど、必ず乾燥地帯に行きつき、やはり食糧飢餓と戦ってきた歴史があります。
私は乾燥地帯の遊牧民のところに行ったのですが、本当に周りにはなにもないです。遊牧生活をしている乾燥地帯には、本当に食べ物がないのです。
草だってちょっとしかありません。
そのような中、やはり飢餓から逃れるためには、なんでも利用しないと無理なのです。
そこで、乾燥地帯で生きていくための知恵として、家畜と遊牧、というものに行きついたわけです。
草しかない地帯で、その草を牛が食べることにより、それをタンパク源に変えていき、そのタンパク源から人間が恩恵を受けるという歴史があるというところを、まず考えなければいけません。
<超高温殺菌乳>
ところがその遊牧民にでは、がんの発症率が高いかというと、伝統的な遊牧民においては、牛乳による悪さというのはデータ上はさほど出ていません。これは見事でした。
北海道の酪農学園大学の石井教授は、20年間モンゴル遊牧民を調査していて、血液検査をしても、本当に良好でびっくりするぐらいで、それぐらい、この差はなんなんだろう、というところがあったわけです。
私なりにいろいろやっていくと、まず一つが、牛乳の製造方法に問題があるとおもいました。超高温殺菌乳です。
だいたい120~135℃で、1~3秒間殺菌する方法なのですが、日本ではこの、超高温殺菌というものが、牛乳では非常に主流です。
当時海外では、低温殺菌が普通だったのですが、超高温殺菌が開発されたのは、常温での保存とか、長期間の船舶向けのためです。これは日本が開発しました。
日本は低温殺菌乳というのが少なくて超高温殺菌が主流であり、一方、欧米圏の海外では割と低温殺菌乳が主流だったりするのです。
超高温殺菌というのは、120~135℃くらいですけれども、低温殺菌だと62~65℃ぐらいを、30分間殺菌するのです。これはパスチャライズと言われています。
この差は何がいいのかというと、超高温殺菌だと、牛乳に含まれているタンパク質のホエイとかカゼインが熱変性といって、化学構造が変わってしまうのです。
牛乳のタンパク質というのは、私たちの消化の過程で、非常に生理活性があるから、熱変性を起こしてはいけないのです。母乳は、当然加工されていませんね。
そうなると、その牛乳に含まれているホエイとかカゼインというのは、非常に消化の過程で生理活性を起こして、ちょっとずつまず胃で、タンパク質を上手に固めて、少しずつ腸に送り出すという働きがあるのです。
カゼインがそういう働きをするのです。
しかし、熱変性したカゼインではそのような生理作用が無くなり、消化が悪くなるのです。
また、ホモジナイズといって、脂肪を均一化する工程があります。
もともとは、そういった処理をしなければ、正常なカゼインであれば、胃の中でまずタンパク質を固めます。そして、少しずつ胃の中でゆっくり消化されて、少しずつ腸に送り込むのがカゼインの本来の働きです。それであれば下痢も起こさないし、アレルギー反応も起こしづらいのです。
しかし、現代の牛乳の製造方法だと、超高温殺菌、かつホモジナイズしていますから、まずカゼインが熱変性を起こして、別の構造になってしまうという構造変性が起きます。
そうなると、超高温殺菌でホモジナイズしたものだと、胃の中で固まらず、腸の中で長く、腸へ早く流れ出ることになります。
そうすると、アレルギー反応を起こしやすくなったり、下痢などを起こしやすい、きっかけになるのです。
牛乳アレルギーを持ってたり、牛乳を飲むと下痢を起こしやすい人が、低温殺菌の、かつノンホモ、ホモジナイズしていないものであれば、「大丈夫でした」っていうかた、割と多くいます。
低温殺菌だと、カゼインやホエイが熱変性を起こさないから、正常な消化が行われるのです。
これはちゃんと研究されています。1984年、動物を使って低温殺菌のノンホモの牛乳を飲んだ場合の胃の画像検査と、あと、超高温殺菌のホモジナイズした牛乳を飲ませた場合、全然胃の中での固まり方が違ったのです。
<ホエイの働き>
ホエイは乳糖と一緒に流れ出す働きがあります。
日本人などは乳糖不耐症が多いです。
だから乳糖に反応しやすいと言われていますが、熱変性していないホエイであれば、ホエイと乳糖は緒に流れ出すので、本当は下痢をしづらいのです。
下痢の原因は、変性カゼインにもあるし、牛乳の冷たさもあるのですが、変性したホエイによって乳糖が遊離し、それが原因でもあるのです。
<モンゴル遊牧民も実は乳糖不耐症>
モンゴル人は、私たち日本人と同じ乳糖不耐症です。
アフリカのマサイ族も乳糖不耐症です。
乳糖に耐性を持っているのは、ヨーロッパ人とかアメリカ人ぐらいであって、アジア圏の、モンゴルも日本人ももちろんそうですが、乳糖不耐症がほとんどです。
では、彼らななぜ下痢しないかというと、熱変性を起こしていない牛乳を飲むからです。またホモジナイズもしないので、ホエイがきちんと働きをして、乳糖と一緒に徐々に徐々に流れ出すので、悪さをせず、下痢をしづらいのです。
このように、正常なホエイやカゼインには生理活性物質が含まれていますので、熱変性さえ受けていなければ、下痢を起こしやすいといわれる成分を徐々に出してくれるので、下痢が起きにくいのです。
ところが、ホエイとカゼインがこのように、熱変性を起こしてしまうと、どうしても、固まりがうまく胃の中でできなくて、小さく固まっちゃうから、このタンパク質と、たとえばカルシウムもそうなのですが、一度に一挙に腸管に流れ出すと、刺激されて下痢が起きてしまうのです。
実際に、モンゴル遊牧民を何十年も調べている酪農学園大学の石井教授は、モンゴル遊牧民などは、乳糖をむしろ武器に分解して、乳酸菌のエサになるので、乳酸菌が非常に多いとのことです。
<カゼイン有害説>
またカゼインそのものは、よく悪玉にされるわけですが、よく考えてほしいのが、そもそも私たちは幼児の頃、母乳を飲んで大きくなったわけですが、母乳にもカゼインが含まれてます。
つまり私たちはカゼインで成長してきたという歴史があるわけです。だから、カゼインそのものは実は否定できません。
ところが、なぜあんなに健康業界で、「カゼインは辞めておけ」「牛乳のカゼインが問題」と言っているかというと、私たちのお母さん、人間のお母さんの母乳に含まれるカゼインの種類と、牛乳、牛のミルクに含まれるカゼインの種類は全然違うのです。そこがまず問題なのです。
<カゼインには種類がある>
カゼインというのは、まず3種類に大別されます。
α-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼインの3種類です。
そして、牛のミルクに含まれているカゼインはα-カゼインの中でも、S1カゼインです。
また、β-カゼインの中でも、A1カゼインというものがあります。
それらは牛のミルクに多く、人間の母乳にはあまり入っていません。
そうした違う種類のカゼインは、私たち人間はその消化に慣れていないのです。
<牛乳はカゼインが多く、人間の母乳はホエイが多い>
牛乳と人間の母乳のタンパク質の構造を見ても、
牛乳にはタンパク質が100gあたり3.5g含まれていて、うちカゼインがほとんどで、3.5g中3gがカゼイン、のこり0.5gがホエイです。
ところが人間の母乳になると、100gあたりタンパク質が1.5g、そのうちカゼインは0.5gなのです。のこりの1.1gはホエイなんですね。
だから、牛乳はカゼインがメインで、ホエイが少し。
一方、人間の母乳は、ホエイがメインで、残りがカゼインという違いがあります。
慣れないカゼインのタンパク質を多く摂ってしまうと、やはり、なかなか消化が難しかったりします。
とくに、牛乳に含まれているカゼインは、α-カゼインの中でもS1カゼインで、またβ-カゼインのなかでもA1カゼインであるため、アレルゲンになりやすいのです。
実際、マウスにカゼインを摂らせても、腸に炎症がやや増えます。動物実験で分かっています。
<ヤギミルクは例外>
ただし、例外があり、それはヤギミルクです。
ヤギミルクは、α-S1カゼインが少ないのです。
ヤギミルクというのは、比較的、人の母乳に近い構成とタンパク質を持っています。
ヤギミルクは非常に研究論文が多く、消化過程でかなりよい、というような報告が圧倒しています。
よって、牛乳由来のタンパク質よりも、ヤギミルク由来のタンパク質のほうが、消化が簡単です。
<牛乳の摂取と乳がん>
最後に、乳がんの話をして終わりましょう。
2020年アメリカの研究で、インターナショナル疫学ジャーナル(International Journal of Epidemiology)というのがあり、アメリカのロマリンダ大学が発表しています。
北米人女性5万2795人、8年調査で、もともとがんの経験がない人を集めて調査をしました。
8年追跡した結果、1日平均、牛乳を1/4~1/3杯飲む人は、乳がんリスクが30%増加し、毎日牛乳を1杯飲む人は、乳がんリスクが50%増え、牛乳を毎日2、3杯飲む人は、乳がんリスクが70~80%も増加したという発表があります。
これはあくまで疫学調査で、まだ完全な相関関係は分かりません。
ただ、研究者が言うには、ミルクにはホルモン、とくにエストロゲンが非常に残留しているので、そこじゃないかと指摘しています。
<近代の牛乳は、妊娠牛から搾乳していることが多い>
近代酪農の牛乳は、妊娠牛から搾乳されたものがほとんどです。
モンゴル遊牧民の牛乳は、妊娠牛から搾乳することはありません。
一般の、市販されている近代牛乳というのは、約75%以上が妊娠牛から搾乳したものであると報告されています。
これによって、エストロゲンが牛乳のほうに残留してしまうのではないかという話があります。実際に研究報告もあります。
本来、子牛を産んでからは、しばらく繁殖させることはありません。つまり妊娠させません。なぜかというと、それが普通の自然界の生態系です。
ところが近代の酪農のシステムというのは、やはり採算を合わせるために、どうしても出産して6日後から10カ月は搾乳するのですが、出産してから2、3か月後には、まだ搾乳中で再び妊娠させます。
それは自然界では基本的にはありえないことです。
搾乳中にもかかわらず、再び妊娠し、搾乳を続けます。そうすると、搾乳しているミルクから、どうしても女性ホルモン濃度が高く残留することになるのです。
妊娠したら、血中の女性ホルモン濃度が高くなり、そうすると、ミルクに移ってしまうのです。
妊娠牛から搾乳したミルクはホルモン量が多いというのは、そういった理由です。
ただし、日本の牛乳の大きな協会がありますけれども、そちらでは「そういった事実はない」(ホルモン残留はない)と否定しています。
なかなかこれは解決できない、議論が絶えないテーマでしょう。
<牛乳の結論>
牛乳に関しての結論ですが、嗜好品として考えればよい、と思っています。
否定するというのは少し言い過ぎだし、全面賛成するのも確かに疑問が残ります。
で、嗜好品にして、もし飲むときは、低温殺菌のホモジナイズしていない、ノンホモ牛乳を選ぶ、そうすればいいでしょう。
できれば、エサにもこだわっていて、さらに、できれば、妊娠牛から搾乳していない牛乳にする。
しかし、ここまで徹底している酪農産地はなかなかないと思います。
<ホエイプロテインは大丈夫?>
ただ、この話をすると、「ホエイプロテインはいいんですか?」とよく言われますが、ホエイプロテインは大丈夫です。
基本的にカゼインはほとんど含まれていませんし、ホルモンも基本含まれていません。
なので、ホエイに関しては大丈夫。
牛乳由来のホエイも、人間由来のホエイとほとんど構造が似ています。
違うのはカゼインだけなので、そこも影響はないので安心して摂っていいと思います。
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